夏になると、熱中症で倒れたり、最悪の場合には死に至るというニュースをちらほら耳にします。そこで、「水分を多めに摂取しましょう」「我慢しないでエアコンを付けましょう」と呼びかけられるわけですが、その呼びかけは、どれも危険を喚起するものばかりで、具体的に『どのように水分補給すればよいか』についてはあまり語られないように思います。

ご高齢になると、喉の渇きを感じなくなりがちである他、中には、トイレに行く回数を減らしたいからという理由で水分を取ろうとされない方も大勢います。つまり、単純に「脱水にならないようにたくさん飲みましょう」だけでは、解決しない場合が非常に多いのです。

そこで、現場では、どうにか水分を取っていただこうと、試行錯誤が繰り返されます。最初の対策は、『飲み物の種類を考える』 。お茶をあまり飲んでいただけない場合には、牛乳、ポカリ、オレンジジュース、コーラ(意外とお好きな方が多い)などなど、ご本人の希望を聞いたり、ご家族と相談しながら、お好きなお飲み物を探り当てます。先日は、ノンアルコールビールを飲んでおられたおばあちゃんもいました(ビールは、私の職場では禁止されているわけではありませんが、よく知られている通りアルコールに利尿作用があるため、脱水予防にはならないとされています)。また、夏だから冷たいものが良い、と考えていたら大間違い。温かいお茶や、お白湯の方を好まれる方もおられます。

その次に、『水分補給の形態を考える』。飲み物があまり進まない場合は、水分を多く含む食事を考えます。味噌汁やスープ、おかゆ、スイカなどはその典型例です。ゼリーで水分補給するのも、よく取られる手です。

もちろん、特に心臓・腎臓に疾患をお持ちの方は、飲める物・食べる物に制限がある場合がありますので、医療職との相談も欠かせません。

あと私が気を付けているのは、『飲みたくなる環境をつくる』ということ。単に「飲みましょう」だけでは飲まなくても、一緒に腰を落ち着けて、グラスを持ち、「乾杯しましょう!」と乾杯すれば、(中身がただのお茶であっても…)最初の一口は必ず飲んでいただけますよね。

さらに、ちょっとした茶菓子をつまみながら、人と話しているうちに、喉が渇いてきたり、間を埋めたりするのに、自然とコップが口に運ばれることがあります。会話を交わしながら、その様子を見て、しめしめ、飲んでくださったぞ…と思うわけです。また、この時間は、水分補給ができるということ以上に、その方との信頼関係を築き、今後のケアに活かせる情報を引き出すという、介護職にとって非常に重要な時間にもなります。もちろん、他にやらなければいけない仕事もあるので、その時は、他の利用者さまと会話が繋がるように、座席を工夫してみたりもします。

「飲みましょう」「飲みましょう」だけでは、苦しみが増すばかり。点滴をする方が早いと思われたり、不安や恐怖を煽って認知症が進行したり、言う方も言われる方も、良いことナシです。水分補給ひとつとっても、それをいかに当たり前の生活の流れの中に溶け込ませるか。さらに言えば、これを契機に、もっと多様で活気のある一日をつくれるのではないか。そんなことを考えているのが、介護職なのです。